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iPhoneが起こしたイノベーションを真面目に考えてみる

iPhone 3G発売から1ヶ月ほどたち、世間の騒ぎもだいぶ収まってきた。発売当初こそ「CMは見るが現物は見れず」の状態だったが、ここに来てあちこちの店頭でも実機展示や販売が行われつつある。お祭り騒ぎが過ぎ去った今、日本の携帯業界にとっての黒船とも言われるiPhoneのインパクトについて改めて考えてみたい。

iPhoneのインパクトを考える上で最も重要な事の一つは、多くの人が言っていることであるが、これは「携帯電話」ではないということだ。iPhoneの登場と906シリーズの登場は、(日本人としては)残念ながら、その意味するところもインパクトの大きさもまったく異なると言って良いだろう。CNETの江島さんのコラムは、ちょっとはしゃぎ過ぎてデムパが入っているwが、実はもっとも本質を突いているように思う。

iPhoneという奇跡:江島健太郎 / Kenn’s Clairvoyance – CNET Japan

iPhoneは、1980年代にパーソナルコンピュータが登場して以来の、約30年ぶりに登場したパラダイムセッターであり、コンピュータ業界、ソフトウェア業界、ウェブ業界、モバイル業界、果てはゲーム業界まで、あらゆる関連セクタの向かう先をたった一つのプロダクトで決定づけてしまったモンスターデバイスです。

本人も言っているように、少々言い過ぎの感はあるがそういう事だ。iPhoneはまさに、インターネット時代の新しいハンドヘルド・デバイスであり、典型的なパラダイムシフト型のイノベーションといっていいだろう。機能的に何か特別目新しいものがあるわけでもなく、ガジェットとしても不完全なところが多く、値段も糞高い(2年契約をしない場合は8万円!!)うえに、Safariはしょっちゅうハングアップするらしいwが、そういった表面的なコトではなくもっと本質的なイノベーションが起こったという事に着目してもらいたい。

本質的なイノベーション、それは大きく3つに分けられるとオレは考えている。1つめは「常時接続型モバイル・インターネット端末」という新しいカテゴリを作り出した事(しかも見事なまでの完成度で)、2つめは新しい「グローバルで統一されたアプリケーションPF」を瞬時に作り上げた事、そして3つめは「新たなSW・コンテンツ流通基盤であるiTunes App Storeの確立」だ。特にこの3つめは、ビジネスモデルとしてのイノベーションも含んでいる。

1つめの「常時接続型モバイル・インターネット端末」というイノベーションはわりとわかりやすいだろう。このような名称で呼ばれる商品は、実は今までありそうでなかった。強いて言えば、EeePCなどのUMPCが該当するかもしれないが、あれはノートPCの延長上に位置づけられる「より携帯しやすいノートPC」でしかない(断っておくが、EeePC自身を否定している訳ではない。イノベーションとしてのタイプが異なるというだけだ。)。

モバイル先進国・日本のケータイであっても、形態を見ればわかるように、そのベースには「電話」としての源流がしっかりと息づいており、インターネット接続機能はあくまでおまけでしかない。漸進的な機能追加・拡張と普及によって高度な進化を遂げてはいるものの、「ガラパゴス」と揶揄されるようにそれは極めて独自でいびつだ。

しかしiPhoneは、初めから「常時接続型インターネット端末」としてデザインされており、UIからソフトウェアからハードウェアから料金体系までもが、その経験を最適かつ最高に堪能できるように計算されて作られている。そうすることによって、ありそうでなかった新しい概念の端末が誕生した。

iPhoneはインターネットを換骨奪胎する。:アート資本主義 – CNET Japan

iPhoneを触っていて感じるのは「もうキーボードもキーワードもいらない」という設計者のメッセージだ。iPhoneではYouTubeでもほとんどキーワード入力を行わなくても操作できるように配慮されている。

iPhoneはインターネットを換骨奪胎する。その2:アート資本主義 – CNET Japan

タッチパネル方式の大画面に加えてデフォルトでマイクとカメラを有していること。そしてWi-FiあるいはGPSで位置情報取得できること。これらの基本 的な機能に加えてiPhoneOS+AppStoreは、モバイルインターネットに最適化されたウェブサービスのための操作インターフェイスを、実に自然 な手順によって提供している。

アート資本主義で述べているように、モバイル・インターネットではマルチタッチが当たり前という時代がすぐそこまで来ているかもしれない。そして、それは逆説的にインターネットの経験(Experience)を自身も塗り替える可能性すら秘めている。

2つめの「グローバルで統一されたアプリケーションPF」という点については、アンカテの記事が非常にうまく表現してくれている。

iPhoneのAPIが次世代のHTMLでApp Storeが次世代のHTTPだ – アンカテ

インターネットとは、技術的に言えば世界規模で張り巡らされたIPネットワーク網のことだが、パソコンの「インターネット」というアイコンをクリックすると、Webブラウザというソフトが ・・・中略・・・・ Webブラウザが「インターネット」であったのと同じような意味で、iPhoneは「インターネット」になるだろう。

iPhone のUIとAPI、そしてiTunes App Storeの組み合わせは、モバイル・インターネットにおけるインターフェースとプロトコルのデファクトをあっという間に確立してしまった。全世界レベルで共通のハード&ソフトのPFを提供することによって、そしてアプリケーション配信のインフラをも同時に提供することによって、モバイル・インターネットにおけるサービスやアプリケーションのあり方を定義したと言い換えることも出来るだろう。日本のケータイ各社、が世界進出という形で何とか実現しようともがき苦しみ、そしてことごとく失敗したものを、あっさりと確立してしまったのだ。

世界中で共通の端末を供給する能力(デザインやローカライズも含め)、世界中で通用するブランドと販売チャネル、バックエンドも含めたサービスインフラの構築(iTunesという既存チャネルの強みも大きい)、これらを高度に統合することによって、先に述べた「常時接続型インターネット端末」の有り様、その仕組みの大枠をも決定づけてしまった訳だ。将来、iPhone自身がデファクトになるかどうかはわからない(Aplle Ⅱがそうであったように)が、そこにあるのはiPhoneっぽい何かであるのは間違いないだろう。

そして3つめのイノベーションである「新たなSW・コンテンツ流通基盤であるiTunes App Storeの確立」。これは前述の「グローバルで統一されたアプリケーションPF」とほとんど同じ事なのだが、敢えて切り出して考えてもらいたい。

知っての通り、iPhoneはそのSDKを(有償ではあるが)解放しており、製作したアプリは(Appleの許可が必要なものの)誰でもiTunes App Storeで全世界に公開できる。そして、売上の30%という高いマージンがあるものの、それらは有償で販売することも可能となっている。個人的には、これが3つの中で最もインパクトの大きいイノベーションではないかとすら思っている。なぜなら、Appleはモバイル・インターネットの世界で「たった一つの巨大な市場」そのものを作り上げてしまったからだ。ここで言う市場とは、売上規模がいくらだとかそういう市場ではなく、経済装置としてのマーケット:市場である。そう、商品と貨幣が交換される基盤となる市場装置そのものだ。

ゲームソフト会社から見たiPhoneの魅力–「ここまで整ったプラットフォームは世界初」:インタビュー – CNET Japan

iPhoneのビジネスモデルは、我々にとってある意味革命的なモデルだと思います。何よりも、通信事業者に一切お伺いを立てなくていい。例えば、・・・中略・・・

ある意味、我々が何を出そうが、値段をいくら付けようが基本的には自由なわけです。そんなプラッ トフォームは、今まで世の中に1個もないんです。PCでも、家庭用ゲーム機でも存在しない。ここまで整っているビジネスモデルを提供している会社というの は、世の中で本当に初めてです。

上記の記事は、ハドソン役員の柴田 真人さんがiPhoneについて語ったインタビューなのだが、非常に興奮している様が伝わるだろうか?

インターネットの登場と共に、デジタル財の流通がグローバル化すると叫ばれて久しい。しかし、現在存在しているSWやデジタル・コンテンツといったデジタル財の流通において、真にグローバルで統合された市場というものは存在しない。インターネットはたしかに情報NWとして世界を繋いでおり、その意味ではグローバルと言えるが、実際のお金が絡む場面では国やサービスプロバイダごとに仕様がバラバラで共通化されていない。以前として、為替の関係 や法律の壁など多くの障壁が存在しており、グローバルとはとても言えないのが実態だ。前述のインタビューの中でも、汎用端末向けにコンテンツをグローバル展開することの困難さがひしひしと伝わってくるだろう。ここから浮き彫りになるのは、コンテンツのグローバル展開上の課題が、よく言われる言語的な問題ではなくむしろビジネスモデルや開発PFの不在であるということだ(現に、グローバルで共通の開発PFを提供するコンシューマゲーム機のゲームソフトは、比較的グローバル展開に成功している例が多い)。

ところがAppleは、自ら開発環境から販売チャネルから流通経路までを一貫して提供してしまうという離れ業をやってのけることで、この問題を解決してしまった。その結果、おそらく世界中のSW開発者やコンテンツ・クリエイターにとって(現時点で)最高に魅力的な市場が誕生した訳だ。

とんでもなく刺激的で興奮することだと思わないか?自分の作ったSWやコンテンツを、とても簡単に全世界に向けて配布したり、販売したりすることが出来るんだぜ。インターネットが、その始まりの時に夢想した世界が、本当に現実のものになったんだ。良いアプリケーションやコンテンツを作りさえすれば、それが全世界中に広がることが夢じゃなくなったんだ。しかも、望めば経済的な利益を得ることだって出来るかもしれない。これは、ITに関わるクリエイターにとっては最高にエキサイティングだと言うほかないのではないだろうか。

・・・ちょっと興奮しすぎた(純粋なクリエイターじゃないのにw)。話を最初に戻そう。

iPhoneは、モバイル・インターネットを舞台にして大きな3つのイノベーションを実現した。新しい概念・カテゴリの端末、統一的な端末とUIによるモバイル・インターネットの再定義、そして新しい市場そのものの創造。そのどれもが、革新的という他に言葉が見つからないほど見事にイノベーションである。「破壊的イノベーション」の教科書があるなら真っ先に載せるべきだと思うぐらいだ。

しかし一方で、これは始まりに過ぎない。iPhoneはたしかに新たな歴史の1ページを開いたが、それが勝者であることを意味しない事もまた、イノベーションの歴史が物語っている。

iPhoneは始まりに過ぎず、次世代「インターネット」の覇権はまだ見ぬ者たちが争う – 狐の王国

むしろiPhoneというのはウェブの歴史でいえば、はじめて画像などを表示する機能を備えたMosaicなのだ。

これからNetscapeやInternet Explorerのような、もっとリッチで多機能な、iPhoneを受け継ぐデバイスが出てくるはず。そこに載っているのはAndroidかもしれないし進化したSynbianかもしれないし、まだ見ぬ未知のOSかもしれなければ、オープン化されたiPhone OSかもしれない。それはまだわからない。

iPhoneは革命だ。だが始まりに過ぎない。

革命の幕開けに居合わせた事を喜びつつ、この時代を、そして何よりこの最高に魅力的でエキサイティングなおもちゃを存分に楽しみたいと思う。

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